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シラバス考 ― 第1回 そもそも日本でシラバスが広まった理由

6件のコメント

【シラバス考シリーズ目次】

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8月19日の日経新聞コラム「あすへの話題 ― サーヴィス産業としての大学」を読んで、大学のサービス産業化とシラバスについて考えさせられたので、自分なりの考えをまとめてみます。長くなりそうなので、数回に分けてシリーズで書いて行きたいと思います。

きっかけとなったこのコラムでは東洋英和女学院の村上学長が、シラバスを「大学のサービス産業化」の一例としてとりあげています。文科省が進めている「大学の変革」の一つであるこの「シラバスの整備」ですが、「ここ数年は、シラバスは学生の視点で書くように、という強い指示がある。」そうです。「私が講義ノートを造ったのは最初の三年だけであった」と語る村上学長ですが、サービス産業化している大学で「現場の先生方に自分の出来ないこと [中教審が求めるシラバスを作ること] をして下さい、という立場にいるのも、随分辛いことではある。」と語っています。

僕にとっては、シラバスが大学のサービス産業化の象徴として書かれている印象を受けたコラムでした。

そして、以下のような疑問を抱きました:

■ なぜ日本でシラバスが広まったのか?
■ そもそもシラバスとはいったいなんなのか?
■ シラバス = サービスなのか?

そして、今回の「シラバス考」に至ったわけです。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここからが今回の本題です。

今回は、なぜ「シラバス」なんていう「ブラックバス(※1)」の親戚みたいなのが日本で広まったのか?という疑問について調べてみたいと思います。

※1.コラム中、村上学長がおっしゃっていたダジャレ。僕にはインパクトあり過ぎでした。

文科省のウェブサイトにある中教審のページを、あっちいったりこっちいったりしながらやっと情報を発見しました。

それは、1991年に文科省が「我が国の文教施策」で「大学設置基準」を大網化・簡素化し、自己評価システムの導入を努力義務化したことに端を発するようです。これは大学の科目区分が廃止され最低履修単位などの規制緩和を行う代わりに、アメリカのアクレディテーション・システムのような第3者機関による評価認証を促したもので、この大網化以降、各大学がシラバスの導入を始め、広まったようです。

この大網化の目的は「高等教育の個性化・多様化」の促進と「教育研究の多様な発展」としていて、そのためには「枠組みとなる基準は可能な限り緩やかな方が望ましいと考えられる。」としている。また、評価システムの導入に関しては、「高等教育機関が、教育研究活動の活性化を図り、質の向上に努めるとともに、その社会的責任を果たしていくためには、不断の自己点検を行い、改善への努力を行っていくことが必要である。(※2)」とし、以下のような提言も行っている。

「今後、各大学等が自己点検・評価を行う際は、まず、各大学等の理念・目的をいかに実現するかという観点から、各大学等の判断により適切な項目を設定し、教育研究活動全般について多面的に点検・評価を行い、現状を正確に把握することが基本となるものと考えられる。その上で、その結果を踏まえ、改善を要する問題点、積極的に評価すべき特色、今後の目指す方向などに関して改善への努力を行うことが望まれる。(※2)」

たしかに、そうあるべきなのでしょう。
ただ、「理念・目的をいかに実現するか」というところが相当議論されないと、自己評価の目的もはっきりしないまま、形式だけ先行してしまいそうな感じがしなくもありません。逆に理念・目的が明確かつ運営に浸透している大学、または、改めて明確化し理解したうえで自己評価システムを導入できた大学は、いま伸びているのではないでしょうか?

※2.文科省ウェブサイトより抜粋

さて、多少話がずれてきたのでシラバスに話を戻します。
1991年の大網化以降にシラバスが広まった経緯は、詳しくはわかりませんが、このときの自己評価システム導入の努力義務化がきっかけとなり広まっていったと見るのが妥当なようです。2004年にはじつに99%の大学でシラバスが作成されていたそうです。

その後、2008年4月に施行された「大学設置基準の改正」ので事実上シラバス作成が義務化され、現在(2010年8月)、約2年4ヶ月が経ちます。
「大学設置基準の改正」の通知より抜粋:

「成績評価基準等の明示等
大学は、学生に対して、授業の方法及び内容並びに一年間の授業の計画をあらかじめ明示するものとすること。また、学修の成果に係る評価及び卒業の認定に当たっては、客観性及び厳格性を確保するため、学生に対してその基準をあらかじめ明示するとともに、当該基準にしたがって適切に行うものとすること。(第25条の2関係)」

はじめに紹介した日経新聞のコラムやインターネットで関連情報を読んだ限りでは、2004年の時点で99%の大学でシラバスが作成されてはいたものの、2010年現在、いまだに各大学で試行錯誤が繰り返されているという印象を受けます。使い始めてしばらくたつが、改めて現状を見つめ直すとそれほどの効果が見えない。もしくは活用できていない。義務化されたシラバスを、大学が仕方なしに教授に強要し、それを教授がいやいや書いている。そういった悪循環が生まれているケースも少なくないのではないでしょうか?

では、なぜ「シラバス」がそのようなことになってしまっているのか?
それを探るためにも、次回はそもそも「シラバスとはいったい何なのか?」について調べ、まとめてみたいと思います。

■ シラバスの定義は?アメリカでは?日本では?
■ 本来、シラバスはどうあるべきなのか?
■ どうすればシラバスを活用できるのか?

考えはじめると、かなり奥が深いですが、その辺りを探れたら「サービス産業化している大学とシラバス」の関係がより明確に見えてくるのではないかと考えています。

今夜は白い魚(白いバス → シラバス)の夢を見そうなウェブマスターのほうの渡辺でした。

【シラバス考シリーズ目次】

シラバス考 ― 第1回 そもそも日本でシラバスが広まった理由」への6件のフィードバック

  1. 最近、日本の某大学から集中講義を依頼されてその際、「シラバス」を書いて欲しいと注文がありました。何のことかと思ってGoogleしたら、母校の日本校のこのサイトが出てきてSyllabus(複数形はSyllabi)のことかと納得し、そのいきさつまで読みました。僕はテンプル本校で博士課程を修了した1999年以降、アメリカの某州立大で教えていますが、「シラバス」はアメリカに最初に留学した1981年ごろからあったように思います。ですから、テンプル本校でTAをやってた頃からずっと書いてます。上記の施策やらを読んでみると、学生へのサービスと授業(または大学全体)の査定をする要素が多いですが、「教える側」から見ると、もう一つ大きな目的があります。それは教授と学生の契約書的役割です。例えば、授業の流れにしても、採点の仕方にしても、また最近では剽窃(Plagiarisim)への対処の仕方にしても、シラバスで明白にすることによって、何か問題があったときに白黒はっきりさせやすいわけです。
    日本の大学は欧米の大学の手順や決まりを追いかける傾向がありますが、これからは学生が授業で行う心理学の実験に関するの倫理委員会の設置やインフォームドコンセントの利用法などが協議されていくことでしょう。

  2. はじめまして。コメントありがとうございます。
    テンプル卒の方に見つけていただいて光栄です!

    僕がアメリカで大学に入ったのは1994年ですが、その頃もシラバスは当然のようにありました。僕は編入をしたため西・東海岸の2つの大学を経験しているのですが、どちらの大学もシラバスは「教授と学生の契約書的役割」だったように記憶しています。講義内容はもちろん、講義を何回以上休んだら落第だとか、中間・期末テストの結果、ペーパー、クラスでの発言などの成績に占める割合、その他の基本的なルールなどがシラバスには書かれていたように思います。どの講座でも、最初のクラスで必ずそういった「契約内容」をしっかり説明されたのを覚えています。そのせいもあってか、シラバスが学生への「サービス」だという印象をうけた覚えはないです。

    すでに日本でもシラバスは広く利用されているようなので、形式にこだわらず学生の「学び」を助けるツールとして、また、講義の質を向上させるツールとして進化していくことを願っています。

    ちょっと時間があいてしまっていますが、これからシラバスについてもう少し詳しく調べてみるつもりです。その際、「倫理委員会の設置」や「インフォームドコンセント」についても調べられたらと思っています。またご教授ください。

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